多くの業界で人手不足の深刻化が叫ばれる中、これからの時代を担い、社会やビジネスを推進していく原動力である「Z世代」、ないし若手人材の採用や育成に注目が集まっています。彼らへの理解を深め、人事戦略や制度構築に活かすことは今後さらに重要になっていくはずです。本記事では、2023年6月13日開催のウェビナー『イマドキの若手が描くキャリアとは?Z世代を活かすための評価・制度・マネジメント徹底解説』の内容をもとに、若手の理解の足掛かりとなるよう、背景や特性の整理・分類を踏まえてマネジメントに活かすポイントをピックアップしてまとめました!登壇者紹介羽田 啓一郎株式会社Strobolights 代表取締役立命館大学 産業社会学部客員教授2003年、株式会社毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)入社。大手企業の新卒採用担当営業に従事。全社年間MVP受賞後、社内の新規事業立ち上げとしてキャリア甲子園などのキャリア教育サービスを立ち上げる。経済産業省「女性が輝く社会のあり方」委員などを経験したのち、2020年独立。現在は複数企業のアドバイザーや大学のキャリア支援プログラムの企画運営を担当。自身でも学生や若手社会人向けのキャリア支援サービスを展開。こんな方におすすめの内容です効果的に自社やサービスのブランド価値を高めるノウハウ、手順をコンパクトに知りたい企業の方ブランディングの本や記事はたくさんあるけれど、どれを読むのが良いのか分からないという方マーケティングのように体系化された情報が少ないので、ブランディングの基礎から押さえたい方そもそも「Z世代」とは?時代背景とパーソナリティへの影響まずは、Z世代がどのような社会背景で生きてきたのか、そしてそれらがパーソナリティとしてどのような傾向に影響しやすいとされているのか見ておきましょう。明確な定義ではないですが、1996年〜2012年の期間に生まれた人のことを指すことが多くなっています。現時点(2023年)の年齢にすると、11歳から27歳までということになります。これだけ幅があれば、当然傾向も変わってくる面もありますので、そもそも「Z世代」という言葉でひと括りにし過ぎるのは危険だということは前提として踏まえておきましょう。今回解説するのも、あくまで大まかな傾向として言える範囲の言及になります。このような時代で、価値観や行動規範の土台として影響し得る出来事、カルチャーはどんなものだったか。今回は大きなものを代表例として挙げていますが、バブル崩壊後の、未来が不透明・不安定な環境の真っ只中を過ごしてきたこと、またスマートフォンやSNSの社会への浸透と共に成長してきたということはおさえておきましょう。ビジネスでの関わりが近づいてくる大学生世代においては、このようなパーソナリティ傾向が見て取れます。今回は全て細かく話しすぎるのは控えますが、特徴的なところはぜひ知っておいてください。過剰な労力をかけてまで大成功を求めていないという効率性重視でありつつ、しかし周囲・他者に対し大きく優れている必要はないが平均的基準より劣っていたくはないという比較傾向があるのは重要なところかもしれません。また、それに関わる観点として、労力とは直結しない偶然性によってうまくいく可能性に期待する “ワンチャン思想” というのも、接する別世代の人によっては特徴的に感じるのではないでしょうか。あくまであえて簡潔にまとめた一傾向ではあるということには注意しつつ、前提として認識はしておいていただけるといいかと思います。キャリア意識の分類からみる!仕事・人生への価値観では、上述を踏まえて、ひと括りにし過ぎないもう少し踏み込んだ整理もしておきましょう。今回は、ビジネスで重要になりやすい「キャリア意識」に特化して分類していこうと思います。もちろん人によって粒度の差はありますが、まずおおむね共通している傾向を踏まえておいてください。先ほどのパーソナリティ傾向に重なるところもあり、これらはキャリア意識の高低に関わらず持ち合わせていることが多いポイントと言えます。不景気が当たり前の生活であり、将来への不安を前提にしている。「頑張れば成功する」とは思っていない。かける労力と得られるメリットのコスパを考える。ネット文化がベースなので、「比較」する また裏側の情報にも意識があり、より確からしい選択を検討する。キャリア意識は、今回は3つの層に分けて整理してみます。キャリア意識の高低については、Z世代に限ったことではありませんが、「自己効力感」の高さがそのまま影響していることが多いと考えています。つまり何か目標などを実現する上で必要な能力や資質を自らが持っているだろうと自認しているかどうかです。能力・資質に関する自認という点で「自己肯定感」とは少し異なります。そして、これらの分類は「ビジネスにおける能力が実際に高いか低いか」とは直接の関係は無いということには注意してください。自己効力感による能力評価はあくまで自認であり、客観的にどうか、個々組織で求められる能力・資質として適しているかとは別であることも少なくありません。いずれの層であれ安直に良い悪いという話ではないということです。【分類1】キャリア意識が高い層まずはキャリア意識が高い層についてですが、ここについては他の層に比べて、中でも2つに分かれやすいと思っています。一方は「成功」への意欲が比較的大きい層で、もう一方は「社会性」への意欲が大きい層です。どちらもキャリア意識は高いと言えますが、その高さの向かう方向に違いがあるということです。2023年現在の年代基準で言うと、前者は20代後半、後者は20代前半に多い傾向があるように感じています。前者の特徴として、組織マネジメントにおいて大事になってくるのは「自分が尊敬できる人へのリスペクトの念が強い」という点です。逆に言えば、尊敬・共感できなければどんな相手であろうが興味を示さないこともあります。また、転職や、本業以外の学びとなる社外活動などにも積極的で、軸となっているのが帰属意識ではなく、自身にとっての成長環境や経験であるというのが特徴です。後者は、単に成功への欲求がベースとなっているわけではないという意味で、前者とは逆の層です。キャリアイメージとしても、独立にこだわりは無く、したとしても “ビッグになる” 的な価値観と異なり、自身の働きの意味を追求する傾向にあります。転職や本業以外の活動においても、軸となる動機は異なり、成長というより社会貢献性に重きを置いていることが多いです。どちらの層にも共通しているのは、「働きやすさ」よりも「働きがい」を重視しているという点です。違いは、その働く意味を見出す基準にあるということになります。また、その意味を見出せる環境でなければ、退職・転職という判断のハードルは低く、見切りの決断スピードは早いとも言えます。いわゆる「キャリア安全性」を意識しており、「心理的安全性」が高いホワイト企業であろうが意味を見出せなければ辞めてしまいます。そしてそれは、自己効力感からくる「キャリアの自律意識」によるもので、自身の考えであるべき環境を決め行動するということです。【分類2】最も一般的な層次に、最もボリュームゾーンである一般的な層について見ていきましょう。こちらも主に2種類の傾向があるように感じていますが、先ほどのようにはっきり分かれているというよりも、グラデーションのように濃淡が異なるといったイメージです。ひとつの方向性としては、キャリア意識が高い層ほど自己効力感が高くないものの、憧れはあるパターンです。そのため、人脈の構築やスキル獲得への自己投資として、社外のコミュニティーや体験にも後ろ向きではありません。このパターンでも、先ほどのように強いビジョンありきではなくとも、転職や副業にも興味はあり、無理のない範囲で情報収集なども行なっていることが多いでしょう。もう一つの方向性としては、言ってしまえば “普通” というべきか、Z世代より上の世代からしても違和感が少なく、おそらくイメージしやすいパターンです。前提に踏まえた通り、将来への不安は上の世代より大きめかもしれませんが、仕事への向き合い方、フラストレーションの乗り切り方は多くの社会人と近しいと思います。ある意味ではZ世代特有の傾向ではないという見方もできるので、自然に接しやすいとも思いますが、ただベースには将来・未来への不安、コスパ意識などの価値観がしっかりあるというところはおさえておいてください。【分類3】キャリア意識が低い層最後に、キャリア意識が低い層にも簡単に触れておきます。ここのイメージは、先ほどの「最も一般的な層」における後者の特性が、より強くなったタイプと捉えていただければと思います。基本的に自己効力感が低く、将来への不安といったZ世代の価値観が色濃く出やすいパターンです。成功意欲は特に無く、給料が上がる・偉くなるといったことにもあまり興味は示しません。リスクや変化に脅かされない、漠然と進んでいく日常生活を望んでいると言うべきでしょうか。このように、「Z世代」と簡潔に言ってもなかなかひと括りに出来るものではないと言うことが少しわかっていただけたかと思います。まずはキャリア意識、自己効力感を基準にしながら3つのレイヤーに分けられるということをおさえて、マネジメントや組織づくりの前提としてみてください。マネジメントや制度構築で意識したい、求められる組織環境のポイントさて、では実際の職場でこうした理解を活かしていくにはどうしていくべきか。今回はあくまで時間の許す限りにはなりますが、いくつかポイントを見ていこうと思います。まずはじめに、上の世代にとってのスタンス、精神論のような前提として、「既存の仕組みや考え方、手法によって無理になんとか囲い込もうとしない」ように意識してください。パソコンやスマートフォンで言えば「OSが異なる」くらいに捉えていただいて、彼らなりの個性・特性を受け止めた上でどう活かしていけるのか考えていくべきです。つまり「自分たちの成功体験をベースにしたマネジメントにこだわらない」よう注意し、彼らがもたらしてくれる新たな理論、選択肢をどう実践・導入していけるのかという視点を忘れないようにしてください。会社としてどのような環境が求められやすいか、という点では大きくこのようなことが言えます。特に経営・マネジメント層からすると難しいところだと思いますが、そもそも「会社のために」という考え方を完全に納得してもらうのは難しいでしょう。組織のあらゆる制度、指揮系統や体制、配属基準、教育・業務方針など、あらゆることは組織運営の効率・生産性のために定められているものですが、それが強く感じられてしまうと嫌厭されることも少なくありません。伴って、キャリア開発についても、会社にとって都合のいい方針ではなく、総合的に、また自身にとって意味ある成長かどうかということを見られるでしょう。つまり単に研修制度が整っているかが重要ではないということです。副業解禁やアルムナイ交流にも同様のことが言え、認めていないということ自体がマイナスイメージにつながることがあると捉えていただければと思います。マネジメント実践においては、まず「1on1」の機会を定期的に持つということは大前提として重要です。直接の教育担当者だけでなく、課長職・部長職など、多面的な立場から現状を把握してあげると良いです。さらに言うと、その若手の状況によっては利害関係のない社外のコーチにも面談・相談できるような仕組みがあるとより好印象で、実際に制度化している企業もあります。その上でどのように導くのかという点では、KPIなど定量評価だけではなく定性評価を盛り込むことを意識してください。定性評価の方が、より会社都合ではなく自己成長にもつながっていると伝わりやすいからでもあります。また、それが個人成績・パフォーマンスだけではなく、チーム・組織にとってどう好影響であるかを明示してあげられるとベターです。そして具体的な業務フィードバックにおいては、改善点の言及・気付きありきではなく、既に良い点は何か、またそれをどうすればさらに良くなるのかをしっかりと言語化・可視化できるようにしましょう。まとめ最後に、繰り返しになる面もありますが、今回お伝えしたいことをまとめると、「若手の人材はミドルマネージャーを通して会社を見る」という認識がカギになるということです。今回紹介したような、若手への理解、また組織環境の最適化についてどう考えているのか、何を実践に反映しようとしているのか、そしてミドルマネージャーとして信頼に値するのかという視点を持たれています。それが見えなければスピーディーに離れてしまいやすい世代でもありますので、どうすれば正解という整備をするのではなく、耳を傾けながら彼らのためになりやすい仕組みを共に模索するという姿勢を大切にしてください!