中途採用の売り手市場化が進み人材の確保に悩む企業が増えている昨今、考えるべき人材の形態や、その採用方法など、人事・採用担当者を取り巻く様々な業務の見直しに迫られるケースも増えています。求人メディアやエージェントに改善を提案してもらってもなかなか上手くいかず、かといって既存の採用の型だけでは問題解決に至らず、コストを含め社内リソースにも限界がある、というのがリアルな採用現場ではないでしょうか。本記事では、2023年8月30日開催のウェビナー『求人メディアやエージェントが教えない!少ない採用リソースで最大効果を生み出す戦略・施策』の内容をもとに、リソースを効率的に、無駄なく採用活動を回していくための戦略・施策の考え方、ポイントについて要点をピックアップしました。登壇者紹介楡井 三樹LRM株式会社 人事責任者(特定社会保険労務士)特定社会保険労務士大学卒業後、金融業界へ。2001年社労士試験合格を機に人材業界へ。8年間キャリアコンサルタントとして3,000人以上の転職相談に従事。2009年より勤めた株式会社パートナーエージェントでは人事としてIPO実現。その後、プレIPOベンチャー3社の人事責任者を経て、現在は情報セキュリティ教育クラウド「セキュリオ」の運営会社、LRM株式会社の人事責任者。また、プロ人事として多数の人事制度・採用支援実績あり。こんな方におすすめの内容です採用予算が限られていて、候補者の獲得に苦戦している人事担当の方採用専任担当が不在、または採用ノウハウが不足しているとお感じの経営者の方採用戦略や計画が正しく作れていないと感じている方自社の採用課題を正しく捉えられていますか?まず、今回のウェビナーでお伝えしたいこと、主目的の整理から始めます。売り手市場が一層加速する上、事業の状況も変動しやすい中での現在の人材採用では、多くの企業にとって「少ない採用リソースでもできる採用活動の改善方法について知る」ことが重要になると思っています。そのためには、まず採用活動において直面しやすい問題についてを正しく捉えられなければなりません。経営者や採用担当者の方からよく聞くのは、「予算が限られていて候補者が集まらない」「施策を強化したいが社内にノウハウがない」「内定を出せても辞退されてしまう」といった問題です。これを対策するため問題の原因を振り返らないといけませんが、挙げられがちなのは「求人媒体が良くない」「エージェントから紹介が十分にあがってきていない」「ダイレクトリクルーティングのスカウト文面が悪い」「そもそも求人の待遇設計が悪い」などでしょう。そうして、それぞれへの解決案として「媒体を変えてみよう」「エージェントの担当者を変えてもらおう」「効果的なスカウト文面の雛形をもとに改善しよう」「引きのある環境や人事制度をつくろう」などという方針が日常的に行われていると思いますが、ここでまず立ち止まってみましょう。それで問題の根本が解決したか、本当の課題は何なのか?その場しのぎの改善では問題が起きなくなることはなく、結果的に必要以上のコストをかけ続けることにもなりかねません。採用人数ありきの考えが生んでしまう無駄なコスト本当の課題を見つけるには、採用をする意味から改めて再確認するのがよいでしょう。多くの場合、採用には目標となる人数や、採用した結果としてどの部門・ポジションをどのくらいの体制規模にするかといったことを設定しており、それらは謂わば「数を基準としている」ことになります。もう少し日々の現場目線に言い換えれば、「退職者の欠員補充」や「事業拡大による増員」などが主ではないでしょうか。しかし、実際には、退職者はいつでも現れる可能性がありますし、採用できた人材が早期に辞めるということも少なくない上、そもそも採用した人材を戦力化できていないために想定していた人数の採用計画では足りないといったことが起こります。つまり、単に数を基準とするだけでは、その時々採用が上手くいっても、ずっと同じ対策を繰り返し続けることになる可能性が高いのです。これが、採用にコストが掛かりすぎ非効率になっている、ひいては十分なだけの人材を確保できないという負のスパイラルに陥っているというものの最もよくあるケースです。採用活動の基準を精査!自社の人材の在り方から見直そうでは、非効率な採用活動を改善していくためのステップについてみていきましょう。まずは何より、「採用は何に基づいて行なっているか?」ということが重要です。今まで行ってきた考えをずっと踏襲していたり、他社の取り組みをそのまま参考にしてみたり、あるいは採用担当者が前職で培ってきたノウハウを流用しているといったことが多いのではないかなと思います。いずれも必ずしも悪いわけではありませんが、根本からの見直しを図るにはそれ以外の視点も必要です。そこで今回、おすすめするキーワードは「人事ポリシー」です。人事ポリシーの意義人事ポリシーとは、ひとことにまとめてしまうと “会社の「社員」に対する考え方” です。人事領域は、このように様々な要素・施策によって複合的に構成されていますが、人事ポリシーはそれらの基準となる最も上位の戦略にあたるものと考えてください。採用、育成、配置、制度構築・運用、人事問題への対応など、ありとあらゆる人事業務の根底とも言え、伴って、経営理念やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)などとも紐付いて、人材についてどのように考えていくのかを明らかにする役割を果たします。これをしっかり定めることで、人事施策に一貫性・継続性を確保でき、状況によって不必要にぶれることを防ぎやすくなる上、役員・管理職などと人事とで考え方にばらつきが出てしまうことも減らせるようになります。人事ポリシーのフレームワーク人事ポリシーは、およそ18ほどの項目によって形作られます。これは一例になりますが、最も優先する人材評価軸は何かや、自社にとって人材は資本的か資源的かなどをはじめとして、各基準項目を簡潔にまとめておくものになります。経営・管理職層と人事でディスカッションしながら定めていくのがよいですが、中にはどう定めるか難しいものも含まれるかもしれませんので、詳しくは人事ポリシーに触れた経験のあるプロフェッショナルな人事担当に相談してみるのもおすすめです。※配布している投影資料全編にて、特に重要な「必要な人材像・方向性」に関わる、コア/スペシャリスト/マネージャー/オペレーター等についての解説もございます。このように、人事ポリシーがもともと社内にあるのであれば改めて確認し、なければまずは新たに策定していくところから始めるのが良いでしょう。採用活動が属人的・感覚的に場当たりのものになってしまうことから脱却し、ひいては経営そのものと向き合い人材の考え方を根本から整理するのに有効な方法なのです。統計的な考えとして、よく求人メディアが言う「母数を増やせば良い人材採用できますよ」という考え方が間違いとは言い切れませんが、それよりも “しっかりとバスに乗せたい人を見定めて届ける” ことに注力した方が効率的な採用活動に取り組めるのではないかということを、考えてみていただきたいです。時間軸ごとに考えて作る、効率的な採用戦略では、精査した方針(人事ポリシー)も元に、戦略を具体化していくための準備も見ていきましょう。ここでは、「長期」「中期」「短期」と、時間軸で分けて整理してみることをおすすめします。長期視点は、人事ポリシーとしてまとめることそのものが当てはまります。これから行っていく人事・採用にまつわるありとあらゆる施策が、一貫性・継続性を持ち、場当たり的ではなく本当に求める組織体制づくりにつながっていなければなりません。中期視点は、「問題・課題把握」と「解決施策立案・実行」に分けられます。前者は、最初に掲げた問いに遡りますが、人事ポリシーを定めたことによって、採用の目的や現状について改めて本質的に見直しやすくなっているはずです。後者は、それに対する解消方法を具体化していく準備のような役割で、求める人材像や適した採用形態、業務の想定リソースやそもそも人手が必要なものか否か、離職原因の見直し、また戦略化していくためのオンボーディングなど、現状の解決に向けてまず最初に取り組みやすい視点と言えます。短期視点は、やっと実際の採用施策についての検討です。ここはイメージしやすいところだと思いますが、今回お伝えしたいポイントは、ここから始めるのではなくその前段階(短期・中期)をしっかり整えることで、無駄なコストや同じ失敗の繰り返しを減らせるということですね。正社員という “当たり前” の見直しちなみに、採用形態について、つまり「社員でなくても問題ないものかどうか」という観点に少し触れましたが、その点について補足です。アンケート(マイナビ調査)で、中途採用の目的に関して昨今の動向があらわれていますが、その多くが雇用に限らず “人材活用” 、つまり副業・兼業やフリーランスなどの業務委託人材との協働によっても対応できることがあります。多くの業界で中途採用は売り手市場化しておりそもそも獲得自体が困難になる中、働き手側では正規雇用以外の選択肢がますます増えてきているため、謂わば “穴場” のようなアプローチ母集団と言えるのです。そのため、求める人材像が拘束時間量ありきではなく即戦力性(スキルや経験)で、かつリモートなどでの協働にも問題なければ、一考の余地があります。コストや稼働量も雇用とは異なり固定的ではないので、採用の効率化という点でも、ぜひ視野に入れてみるのがおすすめです。採用計画・施策の検討は戦略と並行して検討しましょうさて、ここまで練って、初めて採用施策を考えていくことになります。採用計画と採用・募集方法を詰めていくステップですが、あくまでここまでのステップを踏まえて並行していくことが重要です。最初は手間取るかもしれませんし、採用は計画通りにならないことも多いものですが、こうすることで、焦って小手先の手段に走り結果的に無駄なコスト・リソースをかけてしまうということを減らせるはずです。また、この際、メディアやエージェント選定、想定求職者などの背景や目的について、採用担当者以外の関係者の角度も合わせると、見えなかったところが見えてきてブラッシュアップされていくことがあるので意識してみてください。採用予算の策定採用にかけるべきコストの考え方についても、私の経験則も含みますがお伝えします。まず想定年収を設定する必要がありますが、ここは特殊な職種でもない場合は一般的な額で置きましょう(もちろん業界によっては平均は異なります)。そして、採用コストの指標は、エージェント採用の紹介手数料を基準にするのをおすすめしています。新卒だったらおおよそ50〜100万円くらい前後だと思いますが、中途採用については想定年収の35%、そしてそれが人数分かかると考えるのがいいでしょう。この点でも職種によっては35%フィーでは難しかったりもしますが、一般定なビジネス職であれば調整しやすい目安になると思います。このような考え方で、もし必要な予算の確保が難しい場合は、「人数」「職種」「スペック(スキルセットなど)」の要素を分解して、手法を工夫していくことになります。また、予算の精査にあたってポイントとなるのは「従来かかっていた無駄なコストをどう捉えるか」です。先ほどお伝えしたように、退職や非戦力化によって年収分くらいのコストが発生していると考えられますので、それをより適切な採用活動に充て直すという整理ができればよいでしょう。採用施策のポイント予算を策定してから、実際の採用業務の流れとしては、細かくはコツもありますが、ある程度は一般化していると思いますので今回は少し割愛します。わかりやすくポイントになるのは、「採用要件の明確化」や「内定承諾率アップのための自社アピール」など、これまで担当者の感覚基準になりやすかった点を、しっかりと人事ポリシーをベースに整理・可視化していくことです。そして実行手段となる施策については、挙げ出したら多岐に渡りますがよく選ばれる物について触れておきます。いずれも、単に数を打てば当たるというような考えで行うのではなく、戦略に準じてマッチ・戦力化しやすい人材を絞り狙っていくことや、人事ポリシーによって差別化し自社の魅力が出るようにすることが大切だと意識していただければと思います。まとめさて、今回「少ない採用リソースでもできる採用活動の改善方法について知る」をテーマにお話しさせていただきましたが、いかがでしたか。短期視点の施策のみに翻弄されるのではなく、時間軸で分けて考え準備を並行していくというのは、一見回り道に見えるかもしれませんが、確立できれば上手く型になり、むしろ手間取るリソースを減らす近道になります。また、長期視点・中期視点の前提を整理するには、戦略業務への慣れや経験もあるとよいかもしれません。もし社内だけで進めづらい場合には、この時点から副業・兼業やフリーランスの “プロ人事” を業務委託で活用してみることも考えてよいでしょう。すでに成功体験を持っており再現性が高かったり、外部だからこそ客観的な観点を持って踏み込みやすいことなどもあるはずですので、ぜひ視野に入れながら採用活動を見直してみてください。