今回は「新規事業の立ち上げ」について取り上げます。新規事業の立ち上げにおいては、フレームワークを上手く活用すると事業計画や課題を整理しやすく、計画立案や課題解決への効率的な近道にもなります。本記事では、新規事業開発のニーズが高まる背景や、立ち上げのプロセスで意識しておくべき留意点、また役立つフレームワークを解説します。実は新規事業に欠かせない?留意しておくべき “体制” の視点一般社団法人日本能率協会によって500社以上を対象に行われた『2021年度 当面する企業経営課題に関する調査』によると、新型コロナ感染拡大の影響を踏まえ、ビジネスモデルや事業形態を変更した企業は5割を超えているという現状が浮き彫りになっています。前年の同調査では「変更する必要がある」との回答が7割を超えていたようで、新規事業や既存事業の見直しにまつわるニーズは社会状況の変化が進むにつれて高まっており、多くの企業が取り組みも始めていることが見てとれます。また、こうした背景も踏まえ、実際に経営・事業に対し取り組まれた対応については、「柔軟な働き方や勤務形態の拡充」「社内情報システムの強化・拡充」「営業手法の見直し」がTOP3であると同時に、合わせて「ITを活用した商品・サービス・事業の開発」へも意識の高まりが印象的な結果になっています。これらを示唆としてまとめると、「人材活用の在り方を見直し、営業・業務設計も併せて最適化させつつ、新規性の高い事業開発や従来事業形態の改善を行う」という視点が必要とも言えるかもしれません。こうした取り組みにおいては、まずその事業内容やマーケット調査、アイデア出しなどの企画業務にばかりフォーカスされてしまうことがあります。もちろんそれらは欠かせない準備のひとつではありますが、実現にあたっては「事業運営上の体制・業務設計に現実的に問題がないかどうか」や「既存の社員やステークホルダーだけで充分な検討・立ち上げの進行・立ち上げ後の営業ができるかどうか」といった観点も留意しておいた方がよいでしょう。チームで取り組むと効果的!基本的な8つのフレームワークまとめここからは、実践的なフレームワークを紹介していきます。フレームワークを用いてビジネスアイデアを検討、計画立案していくと思考が網羅的にまとまりやすくなります。また、チームメンバーやステークホルダーと共通認識のもとで議論や連携ができるので、立ち上げの進行スピードや障壁解消にも影響してきます。つまり、フレームワークを活用する真価は、ひとりで行うのではなく複数人材・関係者間で共有しながら共に行なっていくことで発揮されるのです。特に、客観的視点が不足したままこうした手法に囚われてしまうと、自社にとって都合のよい情報だけを揃えて進んでしまう可能性もあります。そのため、可能な限り知見や経験がある人材、第三者視点で取り組めるパートナー・取引先がいるとより効果的であるという点を踏まえ、フレームワークを活かしていきましょう。ビジョンとアイデアの整理フレームワークまずご紹介するフレームワークは、《MVV》《5W1H》の2つです。どちらも、これ以上に専門的、応用編とも言えるフレームワークも存在しますが、最も重要なのは「基礎となる土台を固め、チームやステークホルダー間で認識を合わせ、複数人体制で取り組んでビジネスアイデアをまとめていくこと」です。必ずしも複雑なフレームワークを用いるよりも、誰でも分かりやすく、共通認識をつくりやすいように整理するということを意識してみてください。《MVV》とはこれは「Mission(使命)」「Vision(未来像)」「Value(価値観)」を定義することで、経営や事業・プロジェクトにおいて何を実現したいのかを可視化するのに役立つフレームワークです。こうした方向性を明確に定めることで、関係者個々が設定すべき目標やそれぞれの役割が見え始め、チームメンバー間で協力体制を築くことにもつながります。《5W1H》とは抽象的なテーマを、より具体化するときに有効なフレームワークです。以下のような6つの問いかけによって、漠然としていた物事を具体化することができ、事業概要に策定に向け少し前進するでしょう。この段階で新たなアイデアや論点が見つかりやすくもなりますので、後の抜本的な方向転換を避けることにもつながるはずです。マーケットの整理フレームワーク次に、検討中の事業やプロジェクト、ないし自社に関連する市場について整理するために有効なフレームワークとして、《3C分析》《ポジショニングマップ》の2つが挙げられます。競合他社や業界の市況も視野に入れながら、事業の立ち位置を決め戦略の計画・立案していくのに役立つ手法です。《3C分析》とは事業として提供すべき内容を決めるための戦略立案に役立つフレームワークです。これにより「Customer(顧客・市場)」「 Company(自社)」「Competitor(競合他社)」という3者の視点で分析し、「事業のどこを他と差別化するのか?それは実際に売りになる強みか?」を見定めることにもつながります。《ポジショニングマップ》とは事業計画の中で、市場における自社の立ち位置を明確にするフレームワークです。ターゲットがプロダクトを選ぶ際に重視するであろう2つの主要素を軸にとりつつ、各社のプロダクトがどこに位置するのかをマッピングし、自社が差別化できる点や目指すべき領域を簡潔に指し示すことができます。社外のステークホルダーに説明や商談などをする際にもよく用いられるものです。USPの整理フレームワーク“Unique Selling Proposition” 、つまり事業のプロダクトが持つ独自の強みについて更に深掘っていく際に活用したいフレームワークとして《VRIO分析》《SWOT分析》があります。どちらも重要な観点が盛り込まれていますが、自社やプロダクトのアイデアなどに対して思い入れがあるために、自社都合で分析してしまったり、狭い視野で考えてしまいがちなものである点には注意しなければなりません。前項のマーケット整理なども踏まえながら、分析を行う体制面も含めて客観的に整理できるようにするのが非常に重要です。《VRIO分析》とは事業内容をより具体化した時、他社と比べどれほど優位性がある強みなのかを本格的に見極めるのに役立つフレームワークです。プロダクトそのものについてはもちろん、実際に事業を立ち上げ運営するチームやステークホルダーも含めた経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の価値も整理することができ、強みを活かすのに適切な体制があると言えるか、またそれぞれの能力を発揮できる見込みがあるのかなどを見極められます。よく「事業アイデアは良かったものの実現できる環境ではなかった」ということもありますが、せっかくの取り組みが見切り発車にならないよう、自社リソースは事前に把握しておきましょう。《SWAT分析》とは自社がどのような環境に置かれているのかを分析するフレームワーク。企業として、またプロダクトが持つ「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4つの項目を整理することで、市場動向や競合比較を踏まえた上での事業特性・強みを3C分析よりさらに明確化させることができ、戦略・戦術が練りやすくなります。ここでは、分析として有意義な示唆を見出せるかどうかに客観性が大きく関わってきます。文字通り弱みや脅威にも向き合わないといけないため、事業の立ち上げや立て直し経験・ノウハウがある外部人材や、あらゆる企業を支援しているステークホルダーなどからの第三者視点も踏まえて率直にまとめていきましょう。顧客体験の整理フレームワーク最後に、顧客体験の整理に活用できるフレームワークとして《4C分析/4P分析》《カスタマージャーニー》が挙げられます。ポイントとなるのは、顧客視点を重視してプロダクトや販促施策について検討する必要があるという点です。自社のことであるがゆえに、希望的観測や憶測で整理を行いやすい傾向にあるため、客観的な視点でフラットにまとめられるよう意識することが欠かせません。《4C分析/4P分析》とはまず《4C分析》は、顧客側の視点で事業を分析するフレームワーク。顧客にとっての価値、かかるコスト(価格)、購買の利便性、実際に接する際に求めるコミュニケーションなどの視点で事業を整理することで、本当にターゲットにとって意味ある体験になるのかを簡潔に示し、またそれに具体性を持たせていく際に有効です。一方の《4P分析》は、逆に視点を企業側において分析するフレームワーク。新規事業を展開するにあたっては企業側の視点が多くなりがちですが、4C分析と4P分析を両方行うことにより、継続的に価値ある事業と言えそうかがわかりやすくなるでしょう。《カスタマージャーニー》とはターゲットとの接点やその行動・心理変容に合わせて、アプローチの仕方を仮説として整理するフレームワークです。これを図説化したものを《カスタマージャーニーマップ》とも呼びます。見込み顧客ないしターゲットの日常行動から逆算して接点を見定め、プロダクトの認知から比較検討、購買、最終的に優良顧客化してもらうまでの一連のプロセスを可視化した上で、そのフェーズごとに想定されるターゲットの行動、心理の変容を仮説立てることで、適切なブランディング・マーケティング施策や媒体を全体像として検討しやすくなります。このマップを作成するのは、実際の販促活動などのレベルまで落とし込むために作成するものであるため、ここでも客観的視点を持って整理していくことが重要です。よくありがちなのは「自社内だけで練った」か「広告代理店など取引先から提案されてそのまま用いている」というケースですが、特定の立場からのみの視点で検討すると、現実のニーズとは掛け離れた活動・顧客体験を提供するになりかねないため注意しなければなりません。新規事業が頓挫しやすい3つの注意点とは?分岐点から学ぶ成功への近道ここまで実践的にすぐ取り組みやすいフレームワークを紹介してきましたが、どのようなものを活用するにしても欠かせない注意点があります。以下のポイントについて、立ち上げの早い段階から押さえておけるかが成功への最初の分かれ道になりますので振り返ってみましょう。ノウハウやリソースは既存の人材・体制だけで問題ないか?事業のアイデアや戦略は主観のみでまとめられていないか?参考事例や社内外ネットワークを持ち合わせているか?つまり、「必要人材や体制の視点」「ステークホルダーを巻き込む視点」「オープンな関係性構築・活用の視点」のうちどれかが欠如していると、新規事業の立ち上げは初期段階から失敗しやすくなるとも言い換えられます。具体的に見ていきましょう。【注意点1】人材・体制面の準備ができているか新規事業を立ち上げる際、そのチームには様々な機能が求められます。市場調査やアイデア出し、戦略・戦術策定、技術的開発、ファイナンス、プロジェクトマネジメントなど幅広い領域をカバーしなければなりません。これだけでも必要業務量は多い上に、中には高い専門性が欠かせない領域もあります。そのような中、「適切な人材がいないまま始めてしまった」となると、検討段階から方向性がまとまらなかったり、想定以上に立ち上げに時間を要すことになってしまいます。また、「立ち上げたものの運営リソースが必要十分ではなかった」「中途半端な外注をしていたため自走化が難しくなった」というような状態になると、後々の事業推進そのものが難しくなってしまうケースまで考えられます。必要な知見や体制化に不安がある場合は、事業の立ち上げ・推進が軌道に乗る前から人材確保の準備をしていくことをおすすめします。【注意点2】客観性がないまま検討や進行していないかフレームワーク紹介の中でも解説しましたが、客観性がない状態でフレームワークを手段としてだけ活用すると、その分析結果・示唆が信憑性のあるものとは言いづらくなり、むしろ逆効果になってしまう場合も珍しくありません。特に新規事業の立ち上げでは新たな市場への参入やプロダクトの投入が生まれますが、なるべく先入観を捨てて自社の置かれている環境を見定めるということを怠ってしまうと、継続的な事業推進は難しいものです。客観的視点を持った人材や取引先、パートナー企業などと伴走しながら、バランスの取れた組織体制でフレームワークを活用することで本来の効力を発揮しやすくなると言えるでしょう。【注意点3】事例収集や支えとなるネットワークはあるかフレームワーク紹介の中でも解説しましたが、客観性がない状態でフレームワークを手段としてだけ活用すると、その分析結果・示唆が信憑性のあるものとは言いづらくなり、むしろ逆効果になってしまう場合も珍しくありません。特に新規事業の立ち上げでは新たな市場への参入やプロダクトの投入が生まれますが、なるべく先入観を捨てて自社の置かれている環境を見定めるということを怠ってしまうと、継続的な事業推進は難しいものです。客観的視点を持った人材や取引先、パートナー企業などと伴走しながら、バランスの取れた組織体制でフレームワークを活用することで本来の効力を発揮しやすくなると言えるでしょう。また、「実際に障壁にぶつかった際に解決の突破口になるかもしれない」ような人脈・提携先があるかどうかによっても、その対処や軌道修正のしやすさが変わってきます。事業開発においては、方向性や意思決定に悩んでしまったり、壁打ちできる相談先が欲しくなったというシーンは避けて通れません。社内の限られた人員や経験だけで答えを見い出せるとは限りませんので、困ったときに頼りになる専門人材や、立ち上げサポートが得意な企業などと繋がりを持っていると安心です。実際に経験やノウハウが豊富な人材と取り組む場合には、外部のプロ人材にフリーランスや副業形態で参画してもらうこともひとつの手段です。プロ人材に入ってもらうことで、立ち上げナレッジを社内に蓄積することも可能なので、無料配布中のプロ人材活用ガイド&事例集で活用方法をイメージしてみることもおすすめです。いかがでしたか?フレームワークを有効に活用するには、単に埋めればいいだけではなく、プロジェクトチームに必要な人材を揃え体制面を整えておくことも重要です。客観的な視点を大事にし、十分な経験やノウハウを持った体制で進められると、よくぶつかりやすい障壁も乗り越えることができるでしょう。そうした観点も視野に入れ、関係者それぞれが目線を合わせながら新規事業に向き合ってみてはいかがでしょうか。プロ人材の活用についても、もっと知りたい方は以下をチェックしてみてくださいね。