IT技術は日々進化しており、日常生活のみならず企業活動においてもデジタル化の流れが止まることはありません。その中でよく聞くようになったのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉です。しかしながら、DXの意味や取り組むべき理由などをしっかりと把握している方はまだまだ少数でしょう。そこで、この記事ではDXに関して、定義、関連用語との違い、背景、取り組むべき理由、課題、実現に向けたポイントなどを網羅的に解説します。最後まで読み進めることでDXについての理解を深め、今後の導入に活かしてください。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?まずは、DXについて意味や定義などをご説明します。DXは英語表記だと「Digital Transformation」となり、「Trans」を「X」で表現することがあるため、DXといわれています。また、本来のDXの意味や定義と、ビジネスにおけるDXの意味は多少異なります。 ここではそれらの違いがわかるように、以下の5点に触れていきます。意味や定義ビジネスにおけるDXの意味IT化とDXの違いデジタイゼーション・デジタライゼーションとの違いUX/CXとの違い意味や定義DXとは2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマン教授が提唱した、「ITの浸透により人々の生活をよりよくする」という考えです。ストルターマン教授の提唱以降、私たちの生活にはDXが浸透してきました。たとえば、日本でも普及しているキャッシュレス決済もDXの一つです。キャッシュレス決済により、現金を持ち歩く必要がなく会計もスムーズになりました。ほかにもIoT技術により洗濯機や掃除機を外部から操作できるようになるなど、日常生活のIT化が進んでいます。このようなITによる生活の向上全般を指すのが、本来のDXです。ビジネスにおけるDXの意味一方で、ビジネスシーンでのDXは上記とは異なる意味で使われます。ビジネスにおけるDXとは「企業がITの技術を活用して事業を変革すること」です。経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」によれば、以下のとおりDX推進に向けた経営のあり方が示されています。「想定されるディスラプション(「⾮連続的(破壊的)イノベーション」)を念頭に、データとデジタル技術の活用によって、どの事業分野でどのような新たな価値(新ビジネス 創出、即時性、コスト削減など)を生み出すことを目指すか、そのために、どのようなビジネスモデルを構築すべきかについての経営戦略やビジョンが提示できているか。」デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン - 経済産業省注目すべきは、ビジネスモデルの構築や経営戦略の提示にまで踏み込んでいる点です。企業がDXを進めるには、単にITツールを導入するだけでは不十分であると指摘しています。IT化とDXの違いDXについての理解を進めるうえで、「IT化」との違いがわかりにくいと感じる人は多いでしょう。DXもIT化も、デジタル技術を導入するという点では同じだからです。しかし、DXとIT化は厳密には以下のように定義と目的が異なります。DX:デジタル技術の導入により、ビジネスモデルの変革や人々の生活改善までも実現すること。IT化:デジタル技術を導入し、目の前の業務や作業を改善すること。IT化を進めたその先にある概念がDXです。DXの推進にはIT化の推進もまた欠かせません。デジタイゼーション・デジタライゼーションとの違いDXやIT化と混同されがちな概念として、「デジタイゼーション」および「デジタライゼーション」も挙げられます。両者の定義は以下のとおりです。デジタイゼーション:作業をデジタル化すること例:従来の紙の帳簿をパソコンを使ったデジタル管理に切り替えるデジタライゼーション:作業のデジタル化を通じて業務のデジタル化まで行うこと例:デジタル管理の帳簿に数値を入力すると、自動で計算が行われ帳簿付けができるデジタライゼーションはIT化とほぼ同義とみなされます。そのため、4つの単語の関係性をまとめると、DX>デジタライゼーション・IT化>デジタイゼーションとなります。それぞれが上位の概念に含まれている形です。UX/CXとの違いUX(ユーザーエクスペリエンス)やCX(カスタマーエクスペリエンス)といった言葉も、語感が似ていることからDXと間違われやすい言葉です。UX:User Experience。製品やサービスからユーザーが得られる体験。CX:Customer Experience。UXと同じく製品やサービスからユーザーが得られる体験。ただし、CXは商品の購入前から購入後のサポートまで含むより幅広い概念。UXやCXはDXの推進に欠かせないものですが、直接的にデジタル化やIT技術を指す言葉ではありません。DX推進が注目されようになった背景と現状現在はあらゆるシーンでDX推進が叫ばれており、国内企業の取り組みも進みつつあります。これほどまでにDXが注目されるようになった背景には、「2025年の崖」問題と「経済産業省のDX推進ガイドライン」が関与しています。経済産業省がDXの現状を報告した「DXレポート2」とあわせて、DXを巡るこれまでの流れと現在地を確認していきましょう。「2025年の崖」問題「2025年の崖」問題とは、経済産業省のレポートで報告された、このままDXが進まなかった未来における将来的な経済損失の試算です。経済産業省は、DXが進まなかった場合、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると指摘しています。ブラックボックス化した既存システムからの脱却ができず、システムの維持管理費が高騰し、クラウドサービスのような今後世界的に主流となる業界へのビジネス参入も困難となることが主な理由です。一方、DXを実現できた場合は、2030年の実質GDPを130兆円超押上げられるほどの経済効果が得られるとも予測しています。DXレポート - 経済産業省経済産業省のDX推進ガイドライン「2025年の崖」問題を念頭に、経済産業省はDX推進のためのガイドラインを公表しました。このガイドラインでは、企業がDXを実現するうえでの現状の課題とその対策が示されています。具体的には大きく2つの項目で構成されており、DX推進の方向性がわかる内容です。DX推進のための経営のあり方や仕組み(経営戦略やビジョンの提示、経営トップのコミットメント、DX推進のための体制整備、投資家の意思決定のあり方、DXにより実現すべきもの など)DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築(全社的なITシステムの構築のための体制、全社的なITシステムの構築に向けたガバナンス、事業部門のオーナーシップと要件定義能力 など)現状のままでは起こりうるとされる問題(「2025年の崖」問題)と、具体的な方針(経済産業省のDX推進ガイドライン)の公開。この2点により、国内企業の間でDXの注目度が増しています。DXの中間報告「DXレポート2」2020年12月に発表された経済産業省の中間報告書「DXレポート2」では、新型コロナウィルス感染拡大の影響により働き方や人々の考え方に変化が表われつつあることも指摘されました。近年では、対面での営業・販売・会議といった働き方が減り、テレワークに代表される新時代のビジネス形式が受け入れられつつあります。人々の固定概念も薄れ、またウイルスという外的要因により企業が存続危機を迎えたことで、DXを推進しやすい土壌も揃いました。DXに取り組む他社とのビジネス競争に勝利するためには、自社もまたDXを進める必要があるでしょう。したがって、今後もDX推進の重要性はますます高まっていくと予想されます。企業がDX推進に取り組むべき理由やメリット続いて、企業がいまDX推進に取り組むべき理由と得られるメリットを4つご紹介します。業務効率化・生産性向上につながるDX推進により社内のデジタル化が進むと、業務の効率化や生産性の向上が可能になります。たとえば、これまで人の手で行っていた単純作業をデジタル技術で自動化できたり、クラウドストレージを活用して離れた場所の社員同士でデータ共有や編集ができたりします。また、働き方も大きく変わります。テレワークで十分に業務を遂行できるとなれば、オフィスを維持するコストも削減できるでしょう。働く側からしても、育児や介護などとの両立がしやすくなります。良好な働く環境の構築は、優れた人材の確保にもつながります。各業界の競争力が強化されるDX推進は、業界内での競争力の強化につながります。ITやデジタルの技術を積極的に導入する企業は、コスト削減や業務効率化、生産性向上など、さまざまなメリットを獲得しています。さらに、進化するIT技術への対応は消費者ニーズを満たすことにもつながります。消費者からの信頼を獲得しつつ、効率的にビジネスを進める競合他社と争うためには、DXの推進はもはや必須の時代だとさえいえるかもしれません。BCP(事業継続計画)の充実につながるBCPとは、災害やシステムの障害などにより企業が危機的な状態に陥った際に最小限の被害に抑えるための計画です。被害後にもスムーズに業務を継続するための対策を記載するもので、DXの推進はこのBCPの充実にもつながります。たとえば、大震災が起こった際に「オフィスに出社しなければ仕事ができない」という状況が続くと、企業の存続に影響します。最近では、新型コロナウィルスの感染拡大により在宅ワークをすぐに導入した企業とそうではない企業に格差が生まれ始めています。想定外の事態に備えやすくなることも、DX推進の大きなメリットです。ビジネス展開の幅が拡がるDXとは単にITやデジタルの技術を導入することではなく、新たなビジネスモデルやサービスの構築も目的としています。DXの推進により自ずと業務展開の幅が広がり、従来では思いつき得なかった画期的なビジネスモデルにも到達しやすくなります。特に近年は、スマートフォンやインターネットの高速回線の普及により、消費者を取り巻く環境に大きな変化がみられます。一人一台のデバイス保有は当たり前となり、行動データの蓄積も行いやすい環境です。AIを活用したデータ分析など柔軟なシステム開発に取り組むことで、新たなビジネスモデルの手がかりも見つけられるでしょう。DX推進に向けた企業の課題上述の理由から、企業はDX推進にいまこそ取り組むべきです。しかし、DXの実現にあたっては課題も残されています。ここではDX推進に向けた企業の課題として、3つの内容をご説明します。DX人材・IT人材の不足既存システムの老朽化・複雑化IT関連予算の活用DX人材・IT人材の不足現実的な壁として立ち塞がるのが、DX・ITにまつわる人材の不足です。システムコンサルタントや設計者、ソフトウェア作成、情報処理・通信技術など、DXを推進するためには多様な人材が必要となります。しかし、日本のDX・IT人材は絶対的に不足しています。シミュレーションでは2030年には45万人ものIT人材が不足すると予想されており、深刻な状況です。実際、各企業共自社での人材確保は難しく、多くの企業がシステム構築や運用をベンダー企業に任せているのが現状です。ところが、ベンダー企業においてもIT人材の不足は慢性的なものとなっており、戦略的な人材育成ができない場合も増えています。企業には、優秀な人材を早期に確保して自社で教育していくことが求められています。IT人材需給に関する調査(P42) - みずほ情報総研株式会社既存システムの老朽化・複雑化「2025年の崖」の要因の一つでもある企業の既存システムの老朽化や複雑化は、DX推進の大きな課題です。国内企業の既存システムは導入から10年以上経過しているケースも多く、老朽化しています。そのようなシステムをレガシーシステムと呼び、システムそのものが肥大化していたり複雑化していたりします。また、既存システムの導入や拡張を手がけていた社員が退職するケースにも注意が必要です。ベンダーに一任している場合も含め、今やシステム全体を社内で把握できなくなっている企業も多いでしょう。いわゆるブラックボックス化により、新たなシステムの導入の際に支障が出ることも考えられます。IT関連予算の活用経済産業省のDXレポートによると、企業はIT関連費用のうち8割以上が既存システムの運用や保守に充てていることがわかりました。既存システムの維持があまりにも大きな負担になっている企業も多いのが実情です。DX推進をしたいと考えても、予算の都合上、新たなツールやシステムの導入ができないことが予想されます。予算が厳しい場合は、「IT導入補助金」や「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」などを検討してみるのもいいでしょう。IT導入補助金はITツールの導入に活用できる補助金で、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金は、今後の制度変更に対応するための設備投資などを支援する補助金です。このような公的支援を活用して、効率的にDX推進に取り組みましょう。IT導入補助金について - 一般社団法人 サービスデザイン推進協議会ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 - 全国中小企業団体中央会DX推進を成功させるためのポイントここからは、DX推進を成功させるための4つのポイントをご説明します。経営陣が主導となって改革に取り組むDX推進の目的を明確化させるDXを推進できる人材の確保と育成一貫したシステムの構築経営陣が主導となって改革に取り組むDX推進には、担当する現場の社員だけではなく経営者や責任者の協力が不可欠です。経営陣のコミットメントが重要であり、上層部が主導的に改革へ取り組むことが求められます。DXは、企業のビジネスモデルにさえ変革の手を入れる大規模な取り組みです。経営陣がリーダーシップをとり、現場とのコミュニケーションを密に図り、社内全体の意識を変えていかなければ、達成は難しいでしょう。DX推進の目的を明確化させるそもそもなぜDXを推進するのか。事前にその目的を明確化させることも大切です。まずは経営陣が以下のポイントをはっきりとさせ、社内に共有しましょう。DXにより何をしたいのかどのような新たな価値を生み出したいのかどうやってビジネスに変革をもたらしたいのかDX推進はすぐに完了するものではなく、何年もかけて取り組むプロジェクトです。全社一丸となり、明確な目標のもと一つの方向を目指さなければ、いずれは道に迷ってしまいます。DXを推進できる人材の確保と育成DXを推進するには、DXやIT、デジタルに詳しい人材の確保と育成も必要です。しかし、日本の企業はIT人材についてリソース社内にない場合が多く、現状の自社人材のみでの完結は難しいケースも散見されます。人材の確保に加えて、部門の垣根を越えて行動できるチームの構築も検討しましょう。優秀な人材を確保できたとしても、組織の縦割りに縛られるようではチームは機能しません。一貫したシステムの構築DX推進を成功させるためには、一貫したシステム構築も必要となります。前述のとおり、日本企業の既存システムには、老朽化や複雑化、ブラックボックス化したものが多く見られます。このレガシーシステムに継ぎ足しをするような方法では、データのスムーズな共有に不備が出る可能性が高く、結果的にDXの恩恵を最大限に得られません。部門ごとで個別にDXを推進していたのでは、全社で活用できるシステムの構築も難しくなります。開発の初期段階から企業全体を見渡し、シームレスなデータ活用ができる一貫したシステム構築を目指すことが大切です。企業がDXを進めるための流れでは、企業がDXを進めるためにはどのような流れに沿うべきなのでしょうか?具体的な方策は企業の現状により異なるものの、一般的なSTEPは以下のとおりとなります。目的の明確化社内浸透体制の構築計画立案実行まずは何よりも目的を明確化し、その目的をもとに社内での浸透や体制の構築といった具体的なSTEPを踏み出します。STEP5で計画を実行したあとも、それで終わりではなく、PDCAサイクルのように繰り返し改善していく必要があるでしょう。前述のとおり、DX推進は企業に多様なメリットをもたらす一方で、導入には相応の時間がかかります。競合他社よりも速やかな挑戦が、自社の将来的な繁栄への最初の一歩となります。DX推進に成功した企業の事例3選最後に、DX推進に成功した企業の事例を3つご紹介します。DX推進によりビジネスはどう変わるのか、イメージの確認にご活用ください。DXによる多大なコストカットに成功DXによる生産力向上に成功DXによる作業効率化に成功DXによる多大なコストカットに成功あるレンタルユニフォーム事業を手がける企業は、DXにより大規模なコストカットに成功しています。レンタルユニフォーム事業では人為的なミスによるサイズ違いが頻繁に起こり、その対応(返品や交換)に多くのコストがかかることが課題となっていました。解決策となったのが、AIによる画像認識を活用したツールです。導入によりミスを減らすことで、クライアント側の採寸にかかる作業コスト、自社における返品コストの削減を実現しています。企業の重要課題である人為的なミスを、DXにより解消した好例です。DXによる生産力向上に成功生産力向上に成功した事例では、農業分野のDXをご紹介します。近年、従事者の高齢化が問題となる農業分野では、省力化と高収益化を目指し急速にIT化が進んでいます。画期的な発明として受け入れられているのが、AIを活用したドローンによる作業です。ドローン搭載のカメラ映像からAIが害虫や農作物を検知して、ピンポイントに農薬を散布したり肥料を与えたりできます。従来よりもピンポイントに散布できるようになった結果、農薬や肥料の消費量が抑えられ、高収益化につながりました。農薬を通常よりも少なくした農作物は、消費者に安心感を与えられる点も見逃せないメリットです。 DXによる作業効率化に成功DXにより作業効率化を実現した企業は多く、今回は建設・建築業界の事例をご紹介します。建設・建築業界では、図面や参考資料を大量にデスクに積み上げて作業をする形が一般的です。しかし、これでは必要なデータが散らばってしまい非効率。そこである企業は、建材や家具を検索できるアプリを開発しました。そのアプリでは、床や家具を撮影するとAIが画像を認識して分析し、類似商品をいくつか表示します。従来まではカタログのページをめくって探していたところを、すぐに建材や家具を発見できるようになったのです。さらに、デジタル化により情報共有もしやすくなりました。また、これまで建材や家具探しはメーカーの営業に頼る部分がありましたが、このアプリの登場で建材探しをする人とメーカーをマッチングさせるビジネスモデルも誕生しています。本来のDXはITの浸透によって人々の生活をよりよくする考え方です。一方で、ビジネスにおいては、IT技術を活用して事業を変革させることを意味します。「2025年の崖」問題に代表されるように、DXを実現しないことで被りうるデメリットは多く、国内企業にとってDX推進は生き残りをかけた課題です。しかし、導入にあたっては、DX・IT人材の確保などさまざまなハードルも存在します。もし、自社のみでのDX推進について不安や悩みがある場合は、マイナビ顧問の活用もご検討ください。DXやITにまつわる知見を十全に備えたプロフェッショナル人材を、貴社の希望にあわせてご提案します。