2023年4月28日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が成立し、5月12日に公布されました。フリーランス自身はもちろん、フリーランスと取引を行っている事業者にも関係する法律のため、気になっている人も多いのではないでしょうか。このレポートでは、2024年9月5日(木)に開催したこの “フリーランス新法” 解説オンラインセミナーの内容から、要点をわかりやすくまとめてご紹介いたします。多くの事業者が対象となり関係してくる法律となっていますので、施行開始の直前に慌てないよう計画的な準備の参考にしていただければと思います。投影資料全編のダウンロードリンクも用意しましたので、ぜひあわせてご活用ください。登壇者紹介佐藤 香純公正取引委員会事務総局2011年、公正取引委員会事務総局に入局。独占禁止法、下請法の違反被疑事件の事件調査部門で勤務するほか、競争環境整備のための業界の実態調査、講習会の講師を担当。人事・採用担当として、学生向けイベントの企画・運営も行うなど、幅広く従事。2023年より、同年に公布された【フリーランス法】の広報担当として、SNSによる情報展開、YouTubeを活用した解説動画の作成・出演、説明会の企画・登壇など、公正取引委員会のフリーランス法に関する広報全般を担当しています。こんな方におすすめの内容ですフリーランス等への発注を行っている・考えている企業の方取引にまつわる動向をおさえたいフリーランス等の方フリーランス新法とは? 概要と制定背景正式名称「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」は、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」として知られ、「フリーランス新法」や「フリーランス法」とも呼ばれています(以下、この記事では「フリーランス新法」と言います)。個人として業務委託を受けるフリーランスと、企業などの発注事業者との取引の適正化、フリーランスの就業環境の整備を図ることを目的とする法律です。施行日は、2024年11月1日の予定です。フリーランス新法の成立に至る背景には、社会全体で働き方の多様化が進み、働く環境が大きく変わったことが関係しています。近年、「人生100年時代」や「ワークライフバランス」といった考え方が定着し、従来とは異なる仕事観が広く浸透してきました。会社などの組織に雇用されずに個人で働くスタイル、いわゆるフリーランスとして働く人が増えています。そうした変化に伴い、フリーランスが「取引関係として企業と対等ではなく弱い立場に置かれやすい」といった問題点も顕在化しはじめました。発注企業側が報酬額等の取引条件を主導的な立場で決定しやすくなるなど、不利な条件で契約を結ばされたり、契約通りに報酬が支払われないなど、「個人」と「組織」の格差がトラブルにつながることも少なくありません。フリーランス新法の制定には、そうしたフリーランスをめぐる取引や就業環境に関するルールを定め、働き方を柔軟に選択できる環境を整備するという狙いがあります。フリーランス新法の対象事業者新法の対象フリーランス新法の対象となるフリーランスは、業務委託を受ける事業者で、この法律では「特定受託事業者」と定義されています。特定受託事業者は、「業務委託の相手方であって従業員を使用しないもの」と定義されていますが、下記の点について注意が必要です。個人か法人かは関係なく従業員の有無により判断される従業員の使用とは「週所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇用すること」をいう法人であっても、「従業員を使用」しておらず、かつ、代表者以外に他の役員がいなければ、特定受託事業者となります。また、近年盛んな「副業」として働く場合でも、特定の事業者との関係で従業員として雇用されている個人が、副業で行う事業について、事業者として他の事業者から業務委託を受けている場合には、フリーランス新法では特定受託事業者に含まれることになります。規制対象一方、規制対象となる業務の発注事業者を、「特定業務委託事業者」「業務委託事業者」と定義しています。前者の「特定業務委託事業者」は、「フリーランスに業務委託するものであって従業員を使用するもの」であり、一般的に従業員を雇用している企業をイメージしてよいとのこと。また、下請法においては、規制対象となる発注事業者に該当するかは、発注事業者の資本金の多寡が関係しますが、フリーランス新法においては規制対象の条件に資本金の多寡は含んでいないという点に注意しほしいということでした。そして、後者の「業務委託事業者」は、「フリーランスに業務委託するもの」であり、前者との違いとして「従業員を使用するもの」という条件がありません。つまり、従業員を雇用しているかどうかに関わらず、フリーランスに業務委託をするものであれば該当する、ということです。そのため、フリーランスがフリーランスに発注する場合でも当てはまるということがポイントです。フリーランス新法では規制の内容が、発注事業者や業務委託の期間によって異なりますが、発注事業者の定義も2パターンに分けられています。フリーランス新法の対象となる取引フリーランス新法では、事業者からフリーランスへの業務委託、つまり「BtoB」の取引が対象となります。取引の内容については、「製造の委託」「情報成果物の作成委託」「役務の提供委託(修理委託含む)」の3つです。一方で、対象とならない取引は、「労働契約を結び、雇用関係となっている場合」「消費者からフリーランスへの委託(CtoB)」「フリーランスが消費者などに販売する場合(売買取引)」といったケースです。フリーランス新法の規制内容フリーランス新法の規制内容については、「取引の適正化」と「就業環境の整備」という、2本の柱で構成。規制内容の全体像として、取引の適正化においては2つの義務と7つの禁止行為が、また就業環境の整備においては4つの義務が示されています。そして、フリーランス新法を理解する上で重要なのが、「発注事業者や取引の期間に応じて規制内容が異なる」という点とのこと。まず、業務委託事業者が発注事業者の場合、つまりフリーランスに業務を委託する全ての発注事業者の場合に課せられる義務が「取引条件の明示義務」です。次に、特定業務委託事業者が発注事業者の場合、つまり従業員を雇用する企業がフリーランスに業務委託をする場合は、上記の明示義務に加えて「期日における報酬支払義務」「募集情報の的確表示義務」「ハラスメント対策に係る体制整備義務」が義務となります。ここまでは発注事業者の区分による違いですが、ここにさらに取引の期間が関わってきます。特定業務委託事業者が発注事業者で「1ヶ月以上」の業務委託をする場合には上記の4つの義務に加えて、「受領拒否の禁止」「報酬の減額の禁止」「返品の禁止」「買いたたきの禁止」「購入・利用強制の禁止」「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」「不当な給付内容の変更・やり直しの禁止」という7つの禁止行為が、さらに「6ヶ月以上」の場合には、さらに「育児介護等と業務の両立に対する配慮義務」「中途解除等の事前予告・理由開示義務」という2つの義務が加わります。取引の適正化における注意事項就業環境の整備における注意事項フリーランス新法と下請法の違い下請法と、今回新たに施行されるフリーランス新法とで、規制の内容など似た部分が多いと感じる方もいると思います。詳細は割愛しますが、下請法との違いをざっくり3つに分けると下記のとおりとのことでした。規制対象者の違い下請法では資本金1000万円未満の発注事業者は規制対象となりませんが、フリーランス新法においては資本金の多寡は関係ないので、資本金1000万円未満の中小企業・小規模事業者も対象となり得ます。この点は、最もわかりやすく大きな違いと言えるでしょう。対象取引の違い下請法では、建設工事の取引は建設業法での対応となっているため対象外ですが、フリーランス新法においては建設工事も対象となります。また、下請法では役務の提供委託は親事業者から下請事業者への「再委託のみ」対象とされていますが、フリーランス新法では再委託であるかどうかという限定は無いため、より広い範囲の取引が対象になってきます。規制の内容の違い禁止行為については両法で基本的に同じ考え方となりますが、取引条件の明示義務で電磁的方法により取引条件を提供した後に、フリーランスから書面を求められた場合の対応はフリーランス新法独自のものとなります。また、期日における報酬支払義務では、フリーランス新法では再委託の例外的な支払期日があるという点も下請法とは異なります。発注事業者が始めるべきフリーランス新法の準備ウェビナーの最後には、これからフリーランス新法が施行されるにあたって、発注事業者が準備を行うに当たって気を付けておくとよいポイントとして、下記の点に言及がありました。発注書などの様式を見直す取引条件の明示義務は全ての発注事業者が守らないといけないものですので、「自社でどのように発注を行なっているか」「用いている発注様式は明示項目を網羅できているのか」といった観点で見直してみてください。不足があれば、新法で定められている明示項目とも照らし合わせながら改訂を行いましょう。支払期日の設定は問題ないものか確認する例えば「毎月末締め・翌月末支払」というように給付を受領した日から60日以内の支払期日となるよう設定をしていれば問題ありませんが、60日以内にならない支払期日を設定している場合には違反となってしまうため、今一度、確認してみてください。どういう行為が禁止されているのか確認する7つの禁止行為については、まずは何より、具体的に禁止となる行為がどのようなものなのか確認をする、ということが重要です。下記にて、わかりやすく解説している特設サイト等がありますので、ぜひ理解を深めるために役立てていただければと思います。公正取引委員会フリーランス法特設サイト https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2024/index.htmlフリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組 https://www.jftc.go.jp/fllaw_limited.htmlウェビナー資料を無料でプレゼント!本記事で一部掲載しているページに加えて、違反措置などの補足も含んだ投影資料全編を下記から無料配布しています。ぜひ、以下のボタンよりダウンロードしてみてください!